最近の研究から

シミュレーションで探る量子多体現象

物質の状態を知るには、多体のシュレディンガー方程式を解き、統計力学の分配関数を求めればよい。しかしながら、現代のスーパーコンピュータの計算能力をもってしても、完全な解を求めることはできない。そこで、もとの方程式の中に含まれる、物理的に重要な性質を失うことなく、シミュレーションを実行しやすい形へ表現しなおすことが、計算物理における重要な鍵となる。藤堂研究室では、モンテカルロ法に代表される確率的なシミュレーション、経路積分に基づく量子ゆらぎの表現、特異値分解やテンソルネットワークによる情報圧縮、統計的機械学習の手法などを駆使し、古典/量子スピン系やボーズハバード系などに代表される強相関多体系における新奇な状態や相転移現象の探索・解明を目指している。また、最先端のスーパーコンピュータの能力を活かすための並列化手法の研究、次世代シミュレーションのためのオープンソースソフトウェアの開発・公開も進めている。

  • 強相関系のシミュレーション手法
  • 統計的機械学習による物質科学
  • 量子コンピュータの基礎原理
  • 強相関多体系における新奇な状態・相転移現象
  • 動的協調現象・非平衡ダイナミクス
  • 次世代並列シミュレーションのためのオープンソースソフトウェア

2020

スピン軌道絶縁体における励起子ボーズ・アインシュタイン凝縮

exciton-condensation.jpg

近年注目を浴びている 5d 軌道の電子系では電子間相互作用とスピン軌道相互作用の両方が重要になります。我々はスピンと軌道が強く相互作用する場合、電子間のクーロン相互作用が励起子(電子と正孔の結合状態)を安定化させボーズ・アインシュタイン凝縮を引き起こすことを示しました。このように励起子のボーズ・アインシュタイン凝縮により生じる絶縁体相は励起子絶縁体と呼ばれ、現実の物質ではこれまでほとんど見つかっていませんでした。今回提案した理論を 5d 軌道の電子系であるイリジウム酸化物に適用し、2層系が長い間探されてきた励起子絶縁体であることを予言しました。またこの2層系の物質は、励起子がボーズ・アインシュタイン凝縮を起こす量子相転移のすぐ近くにあることを理論的に見出しました。相対論の効果でスピンと軌道が強く相互作用する 5d 電子系では、電子間のクーロン相互作用と電子の運動エネルギーが同程度であることが本質的に重要となることを示しました。

幾何学的割り当て法によるワームアルゴリズムの改良

worm-Ising.jpgモンテカルロ法では和をとるべき「状態」に制約があり、制約を満たしながらサンプリングすることが難しい場合があります。(例として、充足可能性問題。)そのような状況でうまく状態を変えてサンプリングする方法として代表的なのが、ワームアルゴリズム(worm algorithm)と呼ばれる手法です。ワームとは制約を破るキンク(点)のことで、ワームアルゴリズムのアイデアは「制約を常に満たすのは難しいから、いったん制約を破ってしまって後でつじつまを合わせよう」というものです。このモンテカルロ法では制約を破るワーム(キンク)を導入して、ワームを確率的に動かすことでサンプリングを行います。従来の方法では、ワームをほぼ完全にランダムに動かすようにしていました。そこで我々は効率の良い計算をするためのワームの動かし方に関する指針——できるだけ前へ進めという指針——を提案しました。これを可能にするためには、ワームが動く確率を最適化する必要があるのですが、以前我々が開発した確率最適化アルゴリズム Phys. Rev. Lett. 105, 120603 (2010) を使うと簡単に実装できます。そうして最適化したワームアルゴリズムを制約つき問題に書き直したイジングモデルに応用し、従来のワームアルゴリズムと比較して計算効率を25倍改善しました。これはイジングモデルに対して最も効率的だと信じられているクラスターアップデートよりもさらに効率的です。

 

テンソルネットワークくりこみ群

TRG_bond3.pngテンソルネットワークを用いた実空間くりこみ群法は、多体スピン系に対する数値計算手法として近年広く用いられてきている。テンソルくりこみ群法では大規模な古典系/量子系の物理量を効率的に計算することができる。しかしながら、Tensor Renormalization Group (TRG)やHigher-Order Tensor Renormalization Group (HOTRG)といった既存の手法では、高次元になるほど計算量が膨大になってしまうという問題点があった。この問題を解決するために、既存手法に比べて計算量が低い手法や、同じ計算時間でより精度の高い複数の手法を開発してきた。我々の提案したAnisotropic Tensor Renormalization Group (ATRG)では、3次元量子系など高次元系における計算量を劇的に減らすことができる。さらに、テンソルネットワークをテンソルを頂点上だけでなく頂点を結ぶ線上にも置いた形に拡張することで、実空間くりこみ法の精度を、既存の同程度の計算時間を要する数値計算手法に比べて100倍程度高めることに成功した。この手法は一般のテンソルネットワークに対して適用可能である。また、ランダム系やフラストレート古典スピン系へのテンソルネットワークの応用についても研究を進めている

ニューラルネットを用いた古典可積分系の構成

schematic_strategy.png可積分系は物理と数学において豊富な知見を提供してきた。特に古典可積分系は古くから研究されながらも、今なお多くの新たな発見が報告されている。これまで、古典可積分系は、偶然あるいはひらめきによって、あるいはある種の仮設の範囲でのみ発見・構成されてきた。我々はこれに対し、深層学習を用いることで、これまでにない新たな構成法を提案した。具体的には、「作用角変数」と呼ばれる特殊な正準座標で与えられたハミルトニアンを与え、それに対する自然なハミルトニアンを深層学習によって発見する。この手法では特に、(i) ニューラルネットで全単射な座標変換を表現できる。(ii) 時間発展の自動微分を随伴法により効率化できる点に着目した。実際に古典可積分系の代表である戸田格子に対して我々の手法を適用し、戸田格子のポテンシャルを見つけ出すことができることを示した

  • Fumihiro Ishikawa, Hidemaro Suwa, Synge Todo, Neural Network Approach to Construction of Classical Integrable Systems, preprint: arXiv:2103.00372.

イジングモデルの機械学習臨界温度

critial-temperature.pngイジングモデルの臨界温度決定問題について、これまで近似を用いる手法や計算機で数値的に解く手法が主流であった。我々は、異なるアプローチとして、ニューラルネットワークを用いる手法を提案した。格子の特徴量として格子グリーン関数を用いることで、異なる構造の格子に対して共通のニューラルネットワークを用いて臨界温度を予測することが可能となる。4種類の格子を用いテストを行った結果、学習データに含めた格子については高い精度で臨界温度予測に成功した。また学習データに含めていない格子についても、部分的ではあるが、臨界温度の予測が可能であることを示した

変分量子回路パラメータ最適化のための逐次最小問題最適化法

optimization.png近年、量子コンピュータによる量子状態計算と古典計算機による最適化を組み合わせて計算を行う量子古典ハイブリッドアルゴリズムが注目されている。量子古典ハイブリッドアルゴリズムの応用先は、量子化学計算や組合せ最適化、量子機械学習など多岐にわたる。これらのアルゴリズムでは、変分量子回路を用いて計算されたコスト関数が最小になるように変分量子回路のパラメータを最適化する。我々は、変分量子回路のパラメータ最適化のための手法として、逐次最小問題最適化法を提案した。変分量子回路の最適化問題は、解析的に最小値を求められる部分問題に分割できる。具体的には、変分量子回路のパラメータの中から 1 つを選択し、それ以外のパラメータを固定すると、コスト関数は周期$2\pi$の三角関数となっているので、そのパラメータに関して最小値を厳密に求めることができる。この部分問題を繰り返し解くことにより、コスト関数を最小化するように変分量子回路を最適化できる。提案手法を既存の最適化アルゴリズムと比較した結果、提案手法は既存のアルゴリズムよりもはるかに収束が速く、統計誤差に対して頑健であることが明らかとなった。また、提案手法はハイパーパラメータを持たないという点でも利用しやすいアルゴリズムとなっている。提案手法はあらゆる量子古典ハイブリッドアルゴリズムの高速化の目的で容易に導入することが可能であり、量子コンピュータの利用において重要なツールとなると期待される

ランダム系における多体局在現象

mbl.png孤立量子系の研究において、ランダムネスによって励起状態の性質が転移することが注目されている。ランダムネスの弱いときは非局在状態、強いときは局在状態が現れ、多体局在現象(many-body localization)と呼ばれている。我々は、その転移点を求めるため、ハミルトニアンの疎性を用いて任意のターゲット付近の固有ベクトルを高速に求めるSI Lanczos法を、ランダム磁場ハイゼンベルグ模型に適用し、少数の粒子系で完全対角化と同じ結果を再現できることを確かめた。また、連立一次方程式の求解にLU分解ではなくKrylov部分空間法を用いることで、ヒルベルト空間の次元のオーダーの空間計算量で固有ベクトルを求めることができるようになった

開放量子多体系の熱平衡化

非平衡環境下における開放量子多体系の熱平衡化現象について、テンソルネットワークに基づくアルゴリズムを用いた研究を行なった。孤立量子多体系の熱平衡化は固有状態熱化仮説(ETH)によって理解することができる。近年、リンドブラッド型の量子マスター方程式で記述される開放量子多体系についても、ETHに基づく議論によって熱平衡化が議論できることが明らかになった。しかし、この議論には熱力学極限と弱結合極限の交換に関する問題を含んでおり、大規模数値計算と有限サイズスケーリングに基づく検証が必要だった。テンソルネットワークによる数値計算では、並進対称性を仮定することで熱力学極限における状態を直接表現することが可能である。我々は、行列積演算子を用いて熱力学極限におけるリンドブラッド方程式の数値計算を行った。これによって、弱結合極限において系の初期状態がギブス状態であるとき、非平衡定常状態に至るまでの緩和過程の全てにおいて状態はギブス状態と区別できないことを示した

物質科学シミュレーションのポータルMateriApps

materiapps.jpeg日本国内においても、高性能な物質科学シミュレーションソフトウェアが数多く開発・公開されているが、その知名度は必ずしも高くない。また、ドキュメントの作成やユーザサポートにも問題が多く、普及の妨げとなっている。物質科学アプリケーションのさらなる公開・普及を目指し、物質科学シミュレーションのポータルサイト「MateriApps」の整備を行っている。また、気軽にシミュレーションを始めることのできる環境構築を目指し、仮想Linuxシステム「MateriApps LIVE!」、MateriAppsアプリケーションのインストールスクリプト集「MateriApps Installer」の開発・公開も進めている。

テンソルネットワーク法パッケージTeNeS

量子多体系の状態を表すベクトル(状態ベクトル)の次元は、粒子数に対して指数関数的に増大するため、大きな量子多体系を計算機を用いて解析するには、状態ベクトルの情報を効率的を圧縮し、精度良く近似することが有用である。そのような情報圧縮法の一つであるテンソルネットワーク法は、特に相互作用にフラストレーションの存在する量子スピン系の解析に対して強力な方法である一方、これまでに、一般的な模型に簡単に適用できるシミュレーションソフトウェアは存在しなかった。我々は、任意の2次元格子上のスピン模型に対してテンソルネットワーク法を適用して基底状態を計算できるソルバー「TeNeS」を開発・公開した。また、量子モンテカルロ法など量子格子模型のための汎用シミュレーションソフトウェアALPSや並列厳密対角化パッケージHΦなどの公開・開発も行っている

行列演算ライブラリーBLIS

BLISは米国テキサス大SHPC研が開発している柔軟かつ高速的な行列演算ライブラリーである。標準のBLASとの互換性を保っており、AMDの公式BLASとして採用されている。BLISは最小限のコーディングから最大性能を引き出すことで知られており、様々なプラットフォームにおいて公式のBLASを凌ぐ性能を発揮する。BLIS はCで書かれたフレーム部分とそれぞれのCPUアーキテクチャに特化したアセンブラカーネルから構成され、そのアセンブラ部分こそがBLIS高速化の鍵となっている。我々は、ドイツの Jülich 研と共同で、「富岳」のA64FXプロセッサに最適化したBLISのアセンブラカーネルを開発した。現在、富岳の1ノードにおいて、BLISの性能は理論ピークの75%を実現しており、これはArmPLや富士通SSL2(2021年2月版)をも凌いでいる。今後、90%以上のピーク性能を目指し、さらにチューニングを進める予定である

 

多変数変分モンテカルロ法mVMCの高度化

多変数変分モンテカルロ法mVMCは、日本の物性理論コミュニティーにおいて広く使われ、これまで、強相関電子系の基底状態状態における様々な性質(磁性、超伝導など)を解き明かしてきた。しかし、mVMCにおける演算のホットスポットは、反対称逆行列 X-1のRank-1更新であるため、現代のプロセッサーにおいては、性能を発揮することは難しい。「富岳」の新プロセッサA64FXにおいてmVMCの性能を充分に発揮するため、我々は、Woodbury公式を使って更新式を書き直し、Rank-1更新を Rank-k更新に置き換えた。これにより「富岳」における mVMC の性能を大幅に向上することができた

  • RuQing G. Xu, Tsuyoshi Okubo, Synge Todo, Masatoshi Imada, Optimized Implementation for Calculation and Fast-Update of Pfaffians Installed to the Open-Source Fermionic Variational Solver mVMC, preprint: arXiv:2105.13098.

2019

フェリ磁性体スピネル化合物における顕著なスピン格子結合

Miyata-etal-2020-fig4.jpgこれまで反強磁性体では、スピンフラストレーションとスピン格子結合の競合現象が起きることが知られていた。このような現象が他の系や物質でも生じるのかどうかは興味深い問題である。我々はフェリ磁性体スピネル化合物においても、スピン格子結合が重要な役割を担うことを明らかにした。フェリ磁性体スピネル化合物MnCr2S4の磁化曲線を110テスラの高磁場まで調べ、新たな磁場誘起相転移を発見し、磁場温度相図を決定した。また磁歪と超音波を60テスラまで測定し顕著なスピン格子結合を見出した。この物質に対する有効模型を考案し、モンテカルロ計算を用いて実験結果を高精度で再現することに成功した。実験的に観測された巨大プラトー相と非対称スピン秩序相が、スピン格子結合により安定化されることを明らかにした。我々が発見した非対称スピン秩序相ではマルチフェロイックな性質が創発されるため、今後の工学的応用が期待される。

  • A. Miyata, H. Suwa, T. Nomura, L. Prodan, V. Felea, Y. Skourski, J. Deisenhofer, H.-A. Krug von Nidda, O. Portugall, S. Zherlitsyn, V. Tsurkan, J. Wosnitza, and A. Loidl Spin-lattice coupling in a ferrimagnetic spinel: Exotic H-T phase diagram of MnCr2S4 up to 110 T, Phys. Rev. B 101, 054432 (2020), preprint: arXiv:1911.12103

 

テンソルネットワークくりこみ群法の高速数値計算手法開発

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テンソルネットワークを用いた実空間くりこみ群法は、多体スピン系に対する数値計算手法として近年広く用いられてきている。テンソルくりこみ群法では大規模な古典系/量子系の物理量を効率的に計算することができる。しかしながら、Tensor Renormalization Group (TRG)やHigher-Order Tensor Renormalization Group (HOTRG)といった既存の手法では、高次元になるほど計算量が膨大になってしまうという問題点があった。この問題を解決するために、既存手法に比べて計算量が低い手法や、同じ計算時間における精度の高い複数の手法を開発してきた。例えば、Anisotropic Tensor Renormalization Group (ATRG)では、三次元量子系など高次元系における計算量を劇的に減らすことができる。さらに、ボンド重みを取り入れたテンソルくりこみ群法やGraph-independent loop reduction methodsといった手法との組み合わせにより、ATRGの精度のさらなる向上を進めている。

  • Daiki Adachi, Tsuyoshi Okubo, Synge Todo, Anisotropic Tensor Renormalization Group, preprint: arXiv:1906.02007.

実験データと第一原理計算を組み合わせた結晶構造決定

xray結晶構造推定は非常に難しい問題として古くから知られており、様々な推定方法が開発されてきた。特に最近では、実験データがある場合にはエネルギーの最適化と実験データの再現を同時に行うことによって、結晶構造推定の成功率を上げられることが知られてきている。その際に用いられる方法は、実験データの再現度とエネルギーを足し合わせた新しい評価関数を用いて最適化を行うと言った方法である。しかしながら、2つの評価関数を 足し合わせてしまっているため、それぞれの評価関数の情報が失われてしまうといった欠点がある。我々は2つの評価関数の同時最適点を探る方法として重ね合わせ最適化法を開 発し、その性能について調査を行なっている。例えばSiO2系は、エネルギーの局所最 適点が多く存在するため結晶構造を決定するのが難しい系であるが、我々の方法を用いることで結晶構造の推定精度が大幅に上昇することことを確認した。

キタエフスピン液体のテンソルネットワーク解析

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近年、強いスピン軌道相互作用の存在により、有効スピンの間に異方的なキタエフ相互作用を持つ物質群が注目を集めている。キタエフ相互作用のみが存在するハニカム格子上のS=1/2量子スピン模型(キタエフ模型)の基底状態は非磁性のスピン液体状態になっており、このような"キタエフスピン液体"が現実の物質で実現する可能性が議論されている。我々は、以前に提案したキタエフスピン液体のテンソルネットワーク表現(ループガス状態)を拡張することで、スター格子と呼ばれる格子上でのキタエフ模型の基底状態相図を計算した。その結果、ループガス状態は、「カイラルスピン液体」と呼ばれるスピン液体をを定性的・定量的に表現することができ、さらに、異なるカイラルスピン液体(AbelianとNon-Abelian)の間の相転移も表現できることを明らかにした。また、RuCl3の有効模型に対する磁場中基底状態の解析にもテンソルネットワーク表現を適用し、磁場の印加によりゼロ磁場での磁性状態が抑制されて、非磁性状態が安定化することを明らかにした。

  • Hyun-Yong Lee, Ryui Kaneko, Li Ern Chern, Tsuyoshi Okubo, Youhei Yamaji, Naoki Kawashima, Yong Baek Kim, Magnetic field induced quantum phases in a tensor network study of Kitaev magnets, Nat. Comm. 11, 1639 (7pp) (2020). (preprint: arXiv:1908.07671)
  • Hyun-Yong Lee, Ryui Kaneko, Tsuyoshi Okubo, Naoki Kawashima, Abelian and Non-Abelian Chiral Spin Liquids in a Compact Tensor Network Representation, Phys. Rev. B 101, 035140 (9pp) (2020). (preprint: arXiv:1907.02268)
  • Tsuyoshi Okubo, Kazuya Shinjo, Youhei Yamaji, Naoki Kawashima, Shigetoshi Sota , Takami Tohyama, Masatoshi Imada,
    Ground-state properties of Na2IrO3 determined from an ab initio Hamiltonian and its extensions containing Kitaev and extended Heisenberg interactions,
    Phys. Rev. B 96, 054434 (2017)

共振器系での動的な協力現象

bistabilityレーザー照射下で現れる光双安定性は、レーザー強度に対して共振器中のフォトン数が双安定な状態を示し、またその間を不連続に跳ぶといった一次相転移現象に似た振る舞いの現れる相転移現象である。このような非平衡系で現れる動的な協力現象を、大規模な数値計算によって量子力学的な微視的模型から解析を行った。具体的には多数のフォトンと多数の二準位原子からなる量子マスター方程式を近似なく解く並列計算を実行した。量子マスター方程式の時間発展演算子の固有値・固有状態から、定常状態でのフォトン数分布関数のサイズ依存性、および緩和時間のサイズ依存性を調べ、平衡系での一次相転移に対応する結果を得た。従来の研究と比べフォトン数密度の小さな領域では、準安定状態のレーザー周波数依存性が定性的に異なることを明らかにした。また、レーザー強度を時間周期的に変調させることで、その周期に対し動的な相転移現象が現れることを明らかにした。

非一様な系に対するテンソルネットワーク繰り込み

テンソルネットワークは、厳密対角化といった従来の指数的にコストがかかる計算手法に比べ、ベキ的な計算量のコストですむ計算手法として近年注目されている。代表的な手法にTRGや、HOTRGといったものがあるが、それ以外にProjectorによる手法も注目されている。これまでテンソルネットワークは一様な系に対して用いられてきたが、我々は、HOTRGとProjectorによる計算手法を非一様系に拡張し、ボンド希釈を含むイジングモデルに適用し、非一様系においてProjectorによる手法が収束が速いことを確認した

量子モンテカルロ法によるRényiエンタングルメントエントロピーの測定

ee.pngエンタングルメントエントロピーは、量子多体系における量子相関を表す指標のひとつであり、特に基底状態におけるエンタングルメントエントロピーを秩序変数とみなすことで量子相転移を特徴付けることが出来る。一方、量子多体系を解析する上で強力な計算手法として虚時間経路積分に基づく有限温度量子モンテカルロ法が従来より用いられてきたが、相関長が有限の場合においては絶対零度(基底状態)を直接サンプリングすることも可能である。この基底状態をサンプリングする量子モンテカルロ法とレプリカ法を組み合わせることで基底状態のRényiエントロピーを直接計算する手法を開発した。

量子ダイマー模型における非局所更新モンテカルロ法

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量子ダイマー模型は1988年にRokhsarとKivelsonによりフラストレートした磁性体の低エネルギー有効模型として提案された。量子ダイマー模型のハミルトニアンには負符号問題はないが、ダイマーの配置に強い幾何学的な制限があるため、モンテカルロシミュレーションは非常に困難であった。近年、2次元量子ダイマー模型に対して、Stochastic Series Expansion法に基づく新しい量子モンテカルロ法が提案されたが、さらに、新しいデータ構造を取り入れることで、より効率よく有限温度のシミュレーションを行うことが可能となった。この新しい非局所更新モンテカルロ法と有限サイズスケーリングを組み合わせることで、2次元量子ダイマー模型の有限温度相図を精密に決定した。

機械学習を用いた高ヤング率材料探索

figure_periodic_table.png機械学習、特にベイズ推定などを用いた統計的手法による新材料探索(マテリアルズインフォマティクス)が注目を浴びている。機械学習を用いることで、既存物質データを元により性能の高い新物質を予測し、探索することが可能となると期待されている。我々は、特にベイズ最適化を用いた手法を応用し、高ヤング率材料の候補となる物質を探索し、第一原理計算によってそのヤング率を調べた。結果、ベイズ推定とベイズ最適化を用いることで、非常に少ない回数で探索範囲内の最も高いヤング率を示す材料を発見することができた。

2018

励起エネルギー計算のための量子古典ハイブリッドアルゴリズム

nakanishi-1.png近年ノイズがありスケールしない量子コンピュータと古典コンピュータを組み合わせて計算を行う量子古典ハイブリッドアルゴリズムが注目されている。ハミルトニアンの基底状態を求める変分量子固有値ソルバー(VQE)はその代表例である。その他にも量子化学計算や組合せ最適化などの分野で幅広い応用が考えられている。我々は、励起状態を効率的に計算する部分空間変分量子固有値ソルバーを提案した。この手法により、VQEの適用範囲を励起状態およびそれに関連する特性まで広げることができる。加えて、量子古典ハイブリッドアルゴリズム内部で使用する新しい最適化アルゴリズムを提案した。これは、量子古典ハイブリッドアルゴリズムに用いる変分量子回路のパラメータに対する出力特性を活かした最適化アルゴリズムであり、検証実験ではVQEにおいて一般的に使われている最適化アルゴリズムを大きく超える性能を示した。これらのアルゴリズムは、量子古典ハイブリッドアルゴリズムの実用化を大きく加速すると期待できる。

  • Ken M. Nakanishi, Kosuke Mitarai, Keisuke Fujii,
    Subspace-search variational quantum eigensolver for excited states,
    preprint: arXiv:1810.09434.
  • Ken M. Nakanishi, Keisuke Fujii, Synge Todo,
    Sequential minimal optimization for quantum-classical hybrid algorithms,
    preprint: arXiv:1903.12166.

機械学習を用いた強相関電子系の分子動力学

g_r.jpg近年、機械学習を用いた第一原理的計算の高速化・大規模化が大きな注目を浴びている。多くの現実的な物理系の計算では、電子相関が重要となり計算コストが高くなるため、構造最適化が困難な問題となっている。そこで我々は強相関電子系にグッツウィラー近似を用いたイオンポテンシャルを機械学習し、分子動力学による構造最適化を可能とした。その結果、直接計算が困難な 2700 原子系に対して、100万倍程度の高速化を実現した。この新しいアプローチを用いて、連続空間上のハバード模型における金属・モット絶縁体クロスオーバーを明らかにした。機械学習による高速化は様々な手法と組み合わせることが可能で、本研究は大規模強相関電子系計算の先駆的研究と言える。

  • Hidemaro Suwa, Justin S. Smith, Nicholas Lubbers, Cristian D. Batista, Gia-Wei Chern, and Kipton Barros Machine learning for molecular dynamics with strongly correlated electrons (preprint: arXiv:1811.01914)

フラストレート磁性体の磁場中秩序

okubo-1.png相互作用にフラストレートションが存在するフラストレート磁性体は、基底状態のみならず磁場中でも興味深い秩序を示す。我々は、フラストレートした相互作用を持つS=1/2正方格子ハイゼンベルグ磁性体と考えられる電荷移動塩において、飽和磁化の1/2の磁化近傍で、大きな量子ゆらぎが生じる事を明らかにした。さらに、テンソルネットワーク変分法により、この大きな量子ゆらぎは、この物質近傍の理想化された模型で生じる、磁化プラトーが起源となっていることを示した。また、カゴメ格子S=1/2反強磁性体、Cd-kapellasitedsでは、磁場中で複数の磁化プラトーが生じ、それらはマグノンが様々な結晶格子を形成したものとして理解できることを明らかにした。

  • H. Yamaguchi, Y. Sasaki, T. Okubo, M. Yoshida, T. Kida, M. Hagiwara, Y. Kono, S. Kittaka, T. Sakakibara, M. Takigawa, Y. Iwasaki, Y. Hosokoshi,
    Field-enhanced quantum fluctuation in an S=1/2 frustrated square lattice,
    Phys. Rev. B 98, 094402 (6pp) (2018). (preprint: arXiv:1808.06812)
  • R. Okuma, D. Nakamura, T. Okubo, A. Miyake, A. Matsuo, K. Kindo, M. Tokunaga, N. Kawashima, S. Takeyama, Z. Hiroi,
    A series of magnon crystals appearing under ultrahigh magnetic fields in a kagomé antiferromagnet,
    Nat. Comm. 10, 1229 (7pp) (2019).

古典調和振動子模型の非エルゴード性

ergodicity.png記憶を含んだランジュバン方程式である一般化ランジュバン方程式は、通常のランジュバン方程式と異なり、その記憶効果によって特異な拡散現象を示すことが知られている。近年、異常拡散の解析で活発に利用され、またこの異常拡散の示す非エルゴード性が注目を集めている。しかしながら、従来の研究ではエルゴード性の定義について混乱があり、また具体的な物理的モデルを用いた解析は少なく、その物理的意味は明らかではなかった。我々は、非エルゴード性を示す古典調和振動子系を提案し、系における注目粒子の振る舞いを、分子動力学計算、厳密対角化、解析計算を用いて調べた。また同時に、エルゴード性の定義について再考した。その結果、本モデルにおける非エルゴード性の起源は注目粒子の周りに励起される孤立局在モードであることが明らかとなった。

連続空間における経路積分モンテカルロ法

pimc.pngHe4の2次元系は低温で並進対称性とゲージ対称性が同時に破れ、超固体と呼ばれる量子相へ転移することが予想されている。有限温度での2次元系He4の平衡分布を調べ超固体の予想を裏付けるため、連続空間における経路積分モンテカルロ法の改良を進めている。Event-chainモンテカルロの手法と、worm algorithm の手法を援用し、詳細釣り合い条件を破るアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを相互作用のない理想Bose粒子に適用し、従来の方法より分布の収束が速く、トロッター数に対する時間計算量が改善した結果を得た。

マルコフ連鎖モンテカルロ法における局所遷移行列の設計

markov.pngマルコフ連鎖モンテカルロ法は高次元系における物理量を計算する手法として古くから用いられているが,次の状態への遷移確率の選び方によって物理量の推定誤差が大きく変わる。最近では棄却率最小化や詳細つりあい破れといった方法が提案されている。我々は、物理量の自己相関を陽に減らす新しい局所更新法を提案した。この方法には、物理量の推定誤差が小さくなる理由を定性的に説明できるという利点がある。また、従来の方法に比べて物理量の推定誤差が実際に小さくなることを実際のモンテカルロシミュレーションにより確認した。

ランダムネスに相関を持つRFIMの有効次元

ランダム磁場イジング模型(RFIM)では、ランダム性のない純粋系と比較して有効次元の低い系に相当する臨界現象が現れることが知られている。さらに、ランダム場が独立ではなくべき的(減衰指数ρ)な相関を持つ場合においてはD=d-ρで表されるD次元非相関ランダム系に相当する振る舞いとなる事がくりこみ理論により予想されている。我々は、3次元及び4次元の空間的相関をもつRFIMの臨界的振る舞いを、モンテカルロシミュレーションを用いて数値的に評価した。その結果、上部臨界次元と下部臨界次元の中間領域において、有効次元が指数ρに比例して変化する様子が示唆された。さらに、ランダム場の相関が強くなるほど系の有効次元が下部臨界次元に近づき、物理量の有限サイズ効果が顕在化だけでなく、同時に比熱に新たなピーク構造が現れるなど、これまで予想されていなかった特異な振る舞いが明らかとなった。

並列厳密対角化パッケージ

強相関量子多体系の研究において、数値対角化法は最も基本的かつ最も汎用性の高い手法として幅広く使われている。しかしながらその一方で、必要となるメモリ量や計算時間が系のサイズに対して指数関数的に爆発するため、その利用範囲は限られてきた。我々は、並列計算機の進歩や、新しい量子統計力学の計算手法を取り入れた現代的な量子格子模型ソルバー「HΦ」を開発・公開してきた。この並列厳密対角化パッケージでは、ハイゼンベルグ模型やハバード模型、近藤格子模型など、幅広い格子模型を解析することが可能となっている。また、従来のランチョス法による基底状態の計算だけでなく、熱的純粋量子状態を用いた比熱や構造因子の温度依存性やシフト型クリロフ部分空間法を用いた高速かつ安定した励起スペクトル計算も可能となっている。シフト型クリロフ部分空間法のルーチンについては、「Kω」という独立した数値ライブラリとしても整備・公開した。

  • Mitsuaki Kawamura, Kazuyoshi Yoshimi, Takahiro Misawa, Youhei Yamaji, Synge Todo, Naoki Kawashima, Quantum Lattice Model Solver HΦ, Comp. Phys. Comm 217, 180-192 (2017). (preprint: arXiv:1703.03637)
  • 山地洋平, 三澤貴宏, 吉見一慶, 河村光晶, 藤堂眞治, 川島直輝, 量子格子模型の汎用数値対角化パッケージHΦ -スピン液体近傍の熱・スピン励起へ の適用-, 固体物理 52, 539-550 (2017).

2017

二次元SPT相におけるトポロジカル秩序変数

一次元のSPT相に対しては、ストリング秩序変数、ひねり秩序変数など、トポロジカルな秩序を特徴づける様々な隠れた秩序変数が提案され、数値シミュレーションでもその正当性が検証されている。しかしながら、二次元以上においてSPT相が存在するかどうか、さらにそれを特徴づけるトポロジカル秩序変数は何か、など未解明の問題も多い。我々は、近年提案されたstrange correlatorと呼ばれる相関関数を量子モンテカルロ法を用いて精度良く計算する手法を開発した。また、一次元系において、strange correlatorがSPT相を正しく特徴付けることを確認した。この手法は二次元のSPT相に対しても同様に適用可能である。

深層学習における分散処理

dnn.png近年、深層学習において、複数のGPUを使って学習を分散処理するときのGPU間の通信量が大きな課題となっている。一般的なデータ並列による分散処理では、最新のニューラルネットの構成を用いると一回の更新あたり数十〜数百MBに及ぶ通信が発生する。そのため、分散処理による学習時はこの通信にかかる時間がボトルネックとなってしまうことが多い。我々はGPU間での通信量を大幅に減らす方法を提案した。これを用いると、分散処理をしてもGPU間の通信速度に依らず高速に学習することが示された。

長距離相互作用を持つスピン系の臨界減衰指数

longrange.png長距離相互作用を持つスピン系は、近接相互作用のみの系とは異なった臨界現象を示すことが知られている。しかしながら、平均場的領域、中間領域、近接的領域、それぞれの境界については、これまで明らかではなかった。我々は、べき的に減衰する長距離相互作用を持つ二次元正方格子イジング模型を、オーダーNクラスターアルゴリズムを用いてシミュレーションを行い、臨界指数と臨界係数を精度よく評価した。また、"combined Binder ratio"'と呼ばれる、スケーリング補正項を打ち消すユニバーサルな方法を開発し、境界領域における相転移の臨界指数の振る舞いを明らかにした。

1イオン異方性を持つハルデン鎖の基底状態

haldaneS=1の反強磁性スピン鎖におけるハルデン相は対称性に保護されたトポロジカル(SPT)相の代表例である。実際の物質において、このようなスピン系を考える場合、一軸異方性 D(Sz)^2やrhombic異方性E((Sx)^2-(Sy)^2)という1イオン異方性を考慮した基底状態の理解が重要になる。これまでは主に、一軸異方性の影響を中心に研究が行われ、ハルデン相の他にS_zの反強磁性秩序相、Large-D相が存在することが知られていた。我々は、密度行列繰り込み群法を用いて、rhombic異方性も考慮した場合の基底状態相図を明らかにし、わずかでもrhombic異方性が存在すると、ハルデン相とLarge-D相の間に中間相(SxまたはSyの反強磁性秩序相)が生じることを示した。また、エネルギー準位の交差により相転移点を決定するレベルスペクトロスコピーにより、rhombic異方性がない場合のハルデン相とLarge-D相の相境界を6桁の精度で精密に決定した。

  • Yu-Chin Tzeng, Hiroaki Onishi, Tsuyoshi Okubo, Ying-Jer Kao, Quantum phase transitions driven by rhombic-type single-ion anisotropy in the S = 1 Haldane chain, Phys. Rev. B 96, 060404(R) (2017).

2016

量子磁性体におけるランダムネス誘起量子相転移

random強い量子ゆらぎに支配されている低次元量子反強磁性体への不均一性(ランダムネス)の効果は, 量子統計力学的立場からだけではなく, 実際の応用をともなう工学的な見地からも, 重要かつ興味深い問題の一つである. 我々は, 長距離ネール秩序をもつ二次元反強磁性体へのスピン希釈の効果を大規模数値シミュレーションにより研究し, 量子効果とランダムネスとの相乗作用を明らかにした. 一方で, 基底状態としてスピンギャップ状態を持つ系の場合には, 量子効果とランダムネスはお互いに競合し, ランダムネスにより長距離ネール秩序が誘起されるという興味深い現象が実験的にも観測されている. 我々は, これらの量子相転移における, ランダムネスのタイプによる効果の違いを詳細に調べ, いくつかのユニバーサリティクラスに分類できることを明かにした. さらに, 「量子グリフィス効果」と呼ばれる, ランダム量子系に特有のスローダイナミクス現象についても研究を行っている.

量子格子模型シミュレーションのための新しいアルゴリズムの開発

物性物理学の分野においても他の理工学系の分野と同様, 計算科学的手法の重要性は, 年々増している. 量子スピン系, 電子系などの量子格子模型の理論的研究においては, 近年, 量子モンテカルロ法などの新しいアルゴリズムが開発され, さらには超並列スーパーコンピュータの登場による計算機資源の飛躍的増加もともなって, 計算機シミュレーションは数々の重要な発見・発展に貢献している. 我々は, 量子モンテカルロ法における現在最も強力な手法の一つである「連続虚時間ループアルゴリズム」を任意のスピンの大きさを持つ系に拡張を行った. 現在, 磁場がある場合などの対称性の低い系への拡張や, 絶対零度におけるクラスターアルゴリズムの開発などを行っている. 

低次元量子反強磁性体におけるスピンギャップ状態とトポロジカルな秩序

低次元の量子反強磁性体においては, 強い量子ゆらぎのため, 熱ゆらぎの全くない基底状態においてさえもスピンは古典的なネール状態を取ることはできず, お互いに強くゆらいだシングレット状態(スピンギャップ状態)となっている. 我々は, 量子モンテカルロ法を用いて, スピンギャップ状態をもつ量子反強磁性体の性質を解析し, さらにスピンギャップ状態間の量子相転移の臨界現象を調べている. 特にスピン1の一次元梯子系の基底状態に対して, 我々は「プラケット・シングレット・ソリッド状態」と呼ばれる新しい状態を提案し, 実際の基底状態がこの状態により定性的によく記述されることを明かにした. また, スピンギャップ状態を特徴付ける新たな秩序変数(ひねりの秩序変数)を提案し, 様々なスピンギャップ状態, および量子相転移への応用を試みている.

ALPSプロジェクト: 量子格子模型のためのオープンソースソフトウェア

alps.jpegALPS (Algorithms and Libraries for Physics Simulations)プロジェクトは、量子磁性体・電子系など強相関量子格子模型のシミュレーションためのオープンソースソフトウェアの開発を目指す国際共同プロジェクトである。本プロジェクトではXMLに基づく共通入出力データファイル形式の提案、量子格子模型の大規模並列シミュレーションプログラム開発の基盤となるC++ライブラリ群の開発などを行っている。また、計算物理の専門家でなくともクラスターアルゴリズム量子モンテカルロ法などの最新のアルゴリズムを用いたシミュレーションを行えるよう、様々なアプリケーションプログラムの整備も進めている。ALPSのソースコードは、http://alps.comp-phys.org/から自由にダウンロード可能である。

  • Alexander Gaenko, Andrey E. Antipov, Gabriele Carcassi, Tianran Chen, Xi Chen, Qiaoyuan Dong, Lukas Gamper, Jan Gukelberger, Ryo Igarashi, Sergey Iskakov, Mario Kӧnz, James P. F. LeBlanc, Ryan Levy, Ping Nang Ma, Joseph E Paki, Hiroshi Shinaoka, Synge Todo, Matthias Troyer, Emanuel Gull, Updated Core Libraries of the ALPS Project, Comp. Phys. Comm 213, 235-251 (2017). (preprint: arXiv:1609.03930)
  • B. Bauer, L. D. Carr, A. Feiguin, J. Freire, S. Fuchs, L. Gamper, J. Gukelberger, E. Gull, S. Guertler, A. Hehn, R. Igarashi, S.V. Isakov, D. Koop, P.N. Ma, P. Mates, H. Matsuo, O. Parcollet, G. Pawlowski, J.D. Picon, L. Pollet, E. Santos, V.W. Scarola, U. Schollwoeck, C. Silva, B. Surer, S. Todo, S. Trebst, M. Troyer, M.L. Wall, P. Werner, S. Wessel, The ALPS project release 2.0: Open source software for strongly correlated systems, J. Stat. Mech. P05001 (2011). (preprint: arXiv:1101.2646)